食にまつわるお仕事には、実にさまざまなものがあります。そんな『食のプロ』の皆さんをご紹介するシリーズ第二弾です。
第一弾は品質管理の専門家藤本恵子さん
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今回お話をお聞きしたのは、デザイナーの双葉さん。
花王株式会社のデザイナーを経て、沖縄に移住し「ふたばデザイン」を立ち上げました。現在はフリーで食品のパッケージデザインなどのお仕事をされています。
――(スタッフ)デザイナーという職業って、一般人にはぱっとイメージしにくい部分がありますが、なぜ目指そうと思われたのですか?
双葉さん(以後敬称略):もともと、あまり勉強が好きじゃなくて絵を描きたかったんです。それで、多摩美術大学のテキスタイル学部に入学しました。若いころはミーハーで、ファッションブランドが魅力的で。TOKYOコレクションやパリコレもチェックしていたし、Under coverとか、好きだったショップ袋とか大事にして、ブランディングには力があるなと思っていました。
私がデザインをする上ではミーハーな感覚って大事で、ミーハーだからこそトレンドを知ったり、大衆の気持ちを理解できたりします。自分がそこに踊らされ、魅了されていたからこそ、魅了させる側にいきたい、と思いました。
――そもそも「デザイン」とはなんですか?
双葉:同じ水でも外見だけで印象が変わりますよね。知らない人に買ってもらうためには見た目しかないので、本当に大事です。せっかく中身が良くても、買わないと食べてもらえない。店頭で見てもらえるのなんて一瞬なので、伝えられることは本当に少ない。そこで何を伝えるか?デザインとは中身を伝える機能であり、問題解決だと思っています。
――デザインにかかわる仕事を目指した原体験やターニングポイントはありますか?
双葉: 10歳まで岐阜県で育ち、横浜に出てきたのですが、岐阜ではみんなおそろいのジャージを着ていて、横浜市に引っ越したら服装が自由でカルチャーショックを受けました。それから、自分で意識して選んで着ていくようになりました。
中学生のときは雑誌が大好きで、全部買って全部読むという感じでした。いろいろ俯瞰でみていたところがありますね。好きなものだけじゃなく違うジャンルをみるのもおもしろいと思いました。
大学卒業後、花王に入社して日用品のデザインをしていました。ファッションだと一部の人にしか届かないけど、もっとマスに、田舎のおばあちゃんにも届くものをつくりたい、という思いがありました。
花王時代に受賞したデザインアワード
2019年にイギリスに1年と少し語学留学とデザイン事務所でのインターンシップをしました。ロンドンみたいに人種が様々で多様性にあふれた自由な街にずっと憧れと興味があって、視野を広げたい気持ちもあり休職しての渡英でした。
そこで、日本とは環境問題の意識が全然違ったことに刺激を受けました。
使い捨てプラスチックの販売や供給禁止の準備が始まっていて、すでに量り売りのお店も多くあり、環境デモも起きていたし、プラスチックは悪者という感じでしたが、自分はまさにプラスチックのデザインをしている側だったので、ああ……と罪悪感がうまれました。
デモに参加していた人たちはブランドで着飾るのでなく誰かの手作りやオーガニックであることを大事にしていて、私にはそれが素敵に思えました。
ロンドンで出会った光景
それで、意義のある商品づくりをしたい。商品の中身から考えて、なるべく環境負荷のないパッケージも含めて設計できたら納得がいくのかなと思うようになりました。花王でそういった価値観を持ってデザイナーを続ける道もありましたが、パートナーの沖縄転勤に伴い会社は退職することになりました。
(独立して沖縄に移住してからの)今の仕事は食品ロスから作っているものがあったりするので、そういうのは楽しいし、やりがいをもってできているなと思います。
――デザインをおこす手順を教えてください。
双葉:
① ヒアリング・・・問題を深堀りします。何を伝えたいのか。競合や意識しているところ、販路。商品だけじゃなくて会社が大事にしていることも聞きます。価格も。実際に食べてみると机上のコンセプトと印象が違うこともあるので、できるだけ試食するようにしています。
② スケッチ・・・最初にパッとうかぶものが良いことも多いですが、それを超えるものを考えるために、手を動かしてとにかく案を作ります。この段階では理詰めにせず、感覚を大事にしています。
③ デザイン案提案提出・・・ここまでかなり時間をかけます(実働2週間くらい)スケッチの段階で作ったたくさんの案を、言葉にして方向性を提案するようにしています。案は数あれば良いものではないので、いい案に絞って3方向ほどで提案することが多いです。
④ ブラッシュアップ・・・絞られた案をクライアントの意見や要望を聞いたうえでブラッシュアップします。
⑤ 版下データにして納品・・・決定済みのデザインの細部(フォントの文字間や写真の色味など)までこだわり、完成させて入稿できるデータに展開します。
双葉:理詰めで考えすぎると面白くて良いデザインって生まれにくいです。なのでスケッチの段階では感覚を大事に、とにかく手を動かして、いろいろ試してたくさん案を作ります。プレゼンでデザイン提案することが多いですが、後から言葉で整理することで提案の方向性が見えてきます。
あと、メーカーさんとの間にニッコリーナのメンバーが入っているとやりやすいです。
商品は切り口によっていろんな言い方ができるけど、「一言でいうとどういうこと」とか、感覚的なことだけでなく売り場の経験や裏付けもあるから、助かります。
――地域産品のデザインのやりがい、わくわくポイントはどんなところですか?
双葉:商品の売り、顔をつくる仕事だと思うので、人格・キャラクターを付与するような感じです。大手の商品と地域産品の違いというより、案件ごとに違いますね。決まった正解の出し方はないので、案件に対する答えを考えなきゃいけない、それが面白いです。
大手はデータがあるから、問題も明確、競合もはっきりしています。地域産品は問題から考えなきゃいけないので、想像力が問われます。だれがどこでどういう気持ちで買うかな?とか。
全部きれいにデザインしたものよりも、生産者さん自身のキャラクターが出てた方が地域産品は良いなと思う時もあります。地域産品の生産者が手で描いた、みたいなラベルが好きだったりするし、それができるならそれが一番いいと思っています。
コンセプトが明確だとデザインも目立つ、伝わるものになりやすいです。心をつかむもの、かわいい、いいな、すてきだな、わくわくするって大事です。そういうものは売れます。正解はわからないですが、デザインしたものが形になるよろこびがありますね。
――おしごと三種の神器(必須アイテム)を教えてください。
①マックのパソコン(イラストレーター・フォトショップ)
②墨汁と筆:手書きを大事にしているので。フォントだけだと誰でも使えるし決まらなかったりするけど、手書きだと唯一無二で個性も出しやすいです。
③音楽:スケッチを描いている時は自由な気持ちでリラックスして取り組むようにしています。
――デザインについて思うこと、これからやってみたいこと
双葉:渡英を経て自然環境が気になり始めてからは、農家さんを応援したい、もっと地球に緑が増えた方がいいとか、自給率を上げた方がいいと考えるようになり、そこに加わることが自分の中ではいいことだと価値観が変わったような気がします。
自分には食の原体験といえるようなものがないので、憧れがあるのかもしれません。自然の美しいところにも憧れがあります。それで沖縄に来ました。
2023年に生まれたお嬢さんは、双葉さんご夫妻の元気の源!
今は沖縄北部のやんばるに住んでいて、これまで都会暮らしの経験しかない私にとっては刺激や発見がたくさんあります。ここに住む人たちが当たり前にできること(畑や島野菜の調理など)が私にはできない。でも私はデザインができるので自分のできることで活躍できればと思います。
ゆくゆくは自分の作品や商品を作ってみたいし、やりたいことがたくさんあります。
画像提供:双葉さん
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双葉(ふたば) プロフィール
多摩美術大学を卒業後、2010年に花王株式会社へ入社。商品デザイナーとして多くのブランドに携わる。2019年に渡英しロンドンのデザイン事務所でインターンを経験。その後、花王を退職して沖縄へ移住。2021年にデザイン事務所「ふたばデザイン」を設立。昨年はパートナーが監督を務めるドキュメンタリー映画のデザインを担当。グラフィックデザインを軸に、さまざまなことに挑戦中。