たべものの仕事 #3 オイシックス・ラ・大地 農産バイヤー(産地担当) 竹内康二さん(前編)

たべものの仕事 #3 オイシックス・ラ・大地 農産バイヤー(産地担当) 竹内康二さん(前編)

今回お話をお聞きしたのは、オイシックス・ラ・大地株式会社が運営する食品宅配サービス「らでぃっしゅぼーや」農産バイヤーの竹内康二さん。

野菜ってとても身近だけど、私たちの食卓に届くまでにどんなドラマがあるのか、案外よく知りません。

野菜の買い付けとは、どういうお仕事なのでしょう?

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 ――(スタッフ)さっそくですが、農産物のバイヤーとはどんなお仕事ですか

竹内(以後敬称略):会員制宅配なので、既にいらっしゃるお客様に対して必要な野菜、果物を届ける仕事です。生産者とは直接契約をしており、一般的なバイヤーの仕事とはちょっと違うかもしれません。

 

昔先輩に言われて、大事にしているのが「バイヤーに成り下がるな」という言葉です。

ともすると買い手が強くなりがちですが、バイイング(仕入れ、買い付け)ありきではなく、あくまでも生産者と対等であるべきだ、ということです。らでぃっしゅぼーやではバイヤーではなく「産地担当」という言い方をしています。

 

先輩には「右手で握手して左手で殴り合え」とも言われました。ひざ詰めで話しあって、一緒に取り組んでいいものを作り、届けることができるか。だから、良くも悪くも生産者との距離感が近いですし、仕事の範囲が広いです。

 

――どうやって生産者をみつけるのですか?

竹内:らでぃっしゅぼーやでは長い付き合いの生産者が多くて、2030年のお付き合いの方もいます。中には、世代交代があったり、取引がなくなってしまったりする生産者もいますが、末永くお付き合いしていくつもりでやっています。

 

新しい生産者との出会いは、紹介や売り込み、商談会などですね。自分たちで声をかけることもあります。たとえば、どうしても秋のピーマンが足りないとか、この時期のこの野菜がほしい、というときに、どの地域であればつくれるのか、できるだけ農薬を使わないなどの当社の基準に合いそうな形でつくれる地域はどこか、を考えてイチから探すこともあります。

 

農産物は、常時すべてがうまくいくことは少ないので、うまくいかない時に、代わりの生産者を探せばいいということではなくて、どう課題を取り除いて、その方と長く一緒に取り組んでいいものをつくっていけるか、と考えます。

お客様との産地交流イベントもさかん

 らでぃっしゅぼーやは生産者と作付け契約をしていて、半年分、週ごとの買取量と買取額についての約束をします。たとえば「6月の頭から末まで小松菜を1パックいくらで何パック出してください」などとお約束をして、産地で収穫できたら必ず買いますよという契約です。

 らでぃっしゅぼーやの農産物は、できるだけ農薬や化学肥料を使わないなどの独自の基準で栽培してもらっているため、どうしても虫や病気が発生しやすいというリスクがあります。

生産者は、種をまく前、苗を植える前に買い手が決まっていることで収入の見込みが立てやすいこともあり、リスクのある栽培にチャレンジしてくれます。

 

――数の調整や相談をするのが主な仕事ですか?

「この生産者のりんごのこの作り方、品種、すごくいいよね、商品カタログで打ち出してみよう」といった商品開発もします。

カタログ誌面をどうすると伝わるか、お客様へどう情報を出すか。気候風土や品種など商品説明の下地になるような情報を整理して連携するのも重要な仕事です。

 品質の確認も大切です。農産物は天候によるトラブルがつきものなので、原因を確認してどう改善していくか。

「竹内さん、ちょっともいでみて」「はーい」

 

――事前の約束と実際に出てきた品質が想定と違ったときはどうするのですか?

竹内:農産物にかかわる仕事に、品質トラブルはつきもの、と言っていいかもしれません。天候など、不可抗力に近い要因があっても「こういうこともあるよ」となあなあにせず、原因を特定して改善するのが大事です。

 

検品の仕方や流通方法で改善できることもあれば、別の畑から収穫して出荷してもらうことも。品質についてはさまざまな解決方法があるので、そのつど相談します。

 

同じ日に収穫したものでも植え付けをしたタイミングや畑の場所、この角だけ水はけが悪い、日当たりが良くないなど原因となる要素、変数が無数にあります。「この日にこの低温にさらされたこのロットが原因なのか?」など、原因の特定がとても大事です。

 

――商品開発も、加工品とぜんぜん違うのでは?

竹内:例えば『〇〇さんのキャベツ』として売っても『〇〇さんのキャベツ』においしさや良さがなければ何の意味もありません。実際に畑をまわってみたときに、つくりかたにこだわりや工夫があって、それが味としても価値が乗っているか、などを確認します。

 

気候風土や土質(どしつ)もありますし、同じ人がつくってもおいしい時期とそうでない時期があります。名人といわれる人のものでも、そうでない時期のものまでおいしいと銘打って販売すると、その方のブランドを棄損することになりかねません。その時々で「これがいい」というものを、変数のかけ算をしつつ選んでいくのが商品開発かもしれません。

北海道の山奥に行者ニンニクを採りにいったことも

 

ヒグマやマダニに気を付けつつ、転げ落ちそうな急斜面で採取!

 

――今のお仕事は、もともとやりたいと思っていたのですか?人気のポジションでは。

竹内:会社に就職するまでは、職種として具体的なイメージはありませんでした。

学生時代は環境問題に興味があって、農業全般や有機農業に関心がありました。とはいえ農家の後継ぎでもなく、農学部で学んでいたわけでもなく。都市にいながら、産地と消費者をつなぐ仕事がしたいと思ってらでぃっしゅぼーやに入りました。

 

(産地担当は)生産者、作り手に近い仕事で魅力を感じ、やってみたいと思っていました。昔は有機農業をする人は変わり者扱いでした。ビジネスとして考えると大変だし手間もかかります。それでも何かしらの思いがあって取り組んでいる人たちの声を聞くのはおもしろいし、心に響くものがあります。

 

産地担当になって今年で12年になります。まわりまわってこの仕事ができているのはラッキーですね。人気のポジションですが、あくまでも会社の中のひとつの役割で、めぐり合わせもあります。

「子どもたちが小さいときは、よく畑や田んぼに連れていきました」

 

――産地担当はどういう人が向いていると思いますか?

竹内:多様性を認められる人がいいかもしれません。農産物のつくりかたって一つじゃないので、正解がありません。上手な人をまねればいいというわけでもなく、自分なりの答えを探さないといけません。いろいろ調べて情報は伝えるけど、ぜんぜん違う切り口でやる人もいるし、それでうまくいくこともあります。

 

同じりんごは一個もないし、平均から外れた個性を良いというお客様もいます。農産物も生産者も、個性をどう尊重するかが大事。ある意味すごく人間臭い仕事です。

いいところをどう拾い上げ、どう広げていくか。これはどの仕事も同じだと思います。

写真提供:竹内康二さん

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気候変動や高齢化など、農業を取り巻く問題は山積みです。竹内さんはどんなふうに考えているのでしょう?産地担当ならではの三種の神器も教えてもらいました!

後編に続きます。

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竹内康二(たけうち こうじ) プロフィール

らでぃっしゅぼーや株式会社、統合後のオイシックス・ラ・大地株式会社にて、10 年以上農産物の産地開発に携わる。土壌医検定2級、東京都農薬管理指導士。
好きなものはバウムクーヘン。座右の銘は「負けるが勝ち」
「勝ち負けには必ず勝てない人もいるわけで、勝てないのがダメなことじゃないし、みんなが同じようにできるわけじゃない。相手に勝たせてあげてそこから学べることもあります。それぞれの違いやできないことをどう認め合うかが大事かなと思っています」

らでぃっしゅぼーや

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