オイシックス・ラ・大地が運営する会員制の食品宅配サービス 「らでぃっしゅぼーや」農産バイヤーの竹内康二さんに、野菜の買い付けのお仕事について教えてもらいました。→(前編)
後編では、いまの産地のリアルをお聞きします!
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産地のイベント、畑を全力疾走!
――米や野菜の高騰など、農業をとりまく環境の変化についてどう思いますか?
竹内:如実にものがつくれなくなっていると感じます。作り手が減っていることも少なからずあり、ばりばり頑張ってくれている生産者も70代だったり。
らでぃっしゅぼーやと取引のある生産者は後継者が多い方だと思いますが、地域全体に若者がいなくなると、ものがつくれなくなったり運べなくなったりします。
気候変動の面でも、虫や病気が増えて、安定したものづくりができなくなっています。いろいろ研究して農薬を減らしていた人も対処できなくなってきています。
――変化する中で苦労していること、改善・解決に向けて取り組んでいることやアイデアはありますか?
竹内:気候変動のような大きな課題は対処が難しいですが、生産者同士をつないだり、情報共有をしたりしています。
ちょうど先日も果物の生産者の交流会を企画してそれぞれの事例を共有し、気候変動と果樹の生育の研究者に話をしてもらいました。
とはいえ対策は難しくて、ものすごく手がかかることは現実的ではないですし。温暖化で花の開花が早いので、本来4月に咲く花が3月に咲いてしまい、寒の戻りの遅霜(おそじも)で花芽がダメになって実がみのらない状況も年々顕著になっています。
満開!山梨の桃農家さんの桃の花
対策として、例えば燃焼法といって畑で火を燃やして夜通し花のまわりをあたためることも有効ですが、連日だとやりきれず、できなかったときに限って霜がおりることも。
それ以外にもスプリンクラーを使う、人工授粉などいろいろありますが、設備投資のコストや、思ったほど効果がないこともあるし、実行できるリソースがあるかはまた別です。
配送コストも課題で、九州南部や北海道など遠方の物流の組み立てもやっています。市場の近くに停まっているトラックのナンバーをチェックして運送会社を探してルートを組み立てたり。
いくらいいものをつくっても、輸送費が高すぎて割に合わない、となると実質その生産者とおつきあいができなくなってしまうので、死にものぐるいです。
――今までやった仕事で印象的だったこと、印象に残っているエピソードはありますか?
竹内:2年前に、北海道の若手の生産者で、家と作業場が全焼してしまった方がいました。お客様に報告したら、手書きのメッセージが100件以上集まって、生産者に届けに行きました。お金を送りたいというお客様までいて、生産者とお客様の距離の近さを感じました。
生産者は涙を流して喜んで、「全部を失ってしまったけど、絶対に再建してまた野菜を届ける」とおっしゃっていました。自分の仕事は、生産者とお客様のつなぎ役なので、お金だけでなく、気持ちをつなげたと感じられたのがうれしかったです。
距離が離れていても、自分の家族のように思いやりをわけてくださる人が多く、そういうお客様や生産者をつなぐのは、とてもやりがいがあります。
――おしごと三種の神器(必須アイテム)を教えてください!
竹内:長靴です。折り畳みできるので、飛行機や新幹線でも持ち歩ける日本野鳥の会の長靴です。畑がぬかるんでいることもあるので欠かかせません。今使っているのは三代目です。
100円ショップで購入した白いバインダー。A4の紙を格納できるのがポイント
バインダー
産地でメモを取ることが多いため。アイパッドを使った時もありましたが、絵を描くこともあるので、紙が描きやすいです。
絵は、木の形とかハウスの形状、畝(うね)のどこに何が植わっているなどを描きます。生産者の考え方が反映されるところなので。それを理解しておくと、あとあと結果とつながってくることもあります。
こっそりメモを見せていただきました!
ハウスはどの向きでどっちをあけているか、とかすごく小さな工夫なんだけど、小さな違いがおもしろいです。質問にしっかり答えが返ってくる人は、変化があっても考えて動ける人だと思います。
アプリ
左:e土壌図(いーどじょうず)
水はけや土質、粒子などがデータベース化したものです。生産者が自分で土を入れたりして、必ずしもこの通りとは限らないのですが、その地域の土質を意識して話を聞きます。
右:標高のアプリ
標高がどのくらいで気温がどれくらい下がるか、などがわかるので、これも参考にしています。
――自分のエネルギーのチャージ方法は?
竹内:甘いお菓子とコーヒーです!傷んだ紅玉やグラニースミスを持ち帰って、炊飯器でタルトタタンをつくることも。バターが高いのに!と妻に怒られますが(笑)
それから、子どもの学校活動です。PTAやおやじの会の活動で、逃走中やきもだめし、ドッジボールなどのイベントを開催しています。
地方の生産者は「地域を盛り上げる」という使命感をもって農業に取り組んでいる方が多く、地域の活動にどっぷりかかわるようになって、その気持ちがよく分かるようになりました。
文化の違う別のフィールドがもうひとつあると双方に活かせることがあります。
――今後やってみたいことはありますか?
竹内:目の前の課題がすごく大きいです。つくり続けることがすごく大変な時代になっています。だから、今までの延長だとうまくいかないことが多い。それをお客様に伝えるのが自分にできることかなと思います。
有機栽培が、とか慣行栽培が、とかではなく、食べものの見方、日本人の衛生観念や外観へのこだわりは変わっていかざるをえないと思います。
検品ではじかれてしまった野菜を活用した、ある日のこども食堂のメニュー
フードロス削減という意味では、検品ではじかれてしまったけど十分食べられる野菜を鮮度のよいうちに有効活用してもらおうと、こども食堂に提供するという取り組みを考え、板橋区や練馬区など数か所で使っていただいています。もう8年くらいになります。
食べものを大切にする。今ある食べものをどう大事に食べていくか。現実を踏まえて、しっかり伝えていきたいです。
写真提供:竹内康二さん
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竹内康二(たけうち こうじ) プロフィール
らでぃっしゅぼーや株式会社、統合後のオイシックス・ラ・大地株式会社にて、10 年以上農産物の産地開発に携わる。土壌医検定2級、東京都農薬管理指導士。
好きなものはバウムクーヘン。座右の銘は「負けるが勝ち」
「勝ち負けには必ず勝てない人もいるわけで、勝てないのがダメなことじゃないし、みんなが同じようにできるわけじゃない。相手に勝たせてあげてそこから学べることもあります。それぞれの違いやできないことをどう認め合うかが大事かなと思っています」
らでぃっしゅぼーや